松山地方裁判所 昭和29年(行)9号 判決
原告 川又兵次郎
被告 宇和島市長
一、主 文
本件訴はこれを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、理 由
原告提出の訴状及び裁判長の釈明命令に対して提出した書面によれば原告は要するに「被告は宇和島市役所備付けの宇和島市賀古町十四番地上本造瓦葺平家建住宅一棟建坪十五坪の家屋(原告が賃借中)に関する家賃台帳を削除し、適法なる家賃台帳を作成せよ」との判決を求めその請求の原因として原告は昭和二十二年九月十七日訴外林愛蔵よりその所有にかゝる請求の趣旨掲記の家屋を賃借するにあたり同家屋の腐朽破損が甚だしくその儘では到底住居に堪えなかつたので右家主と協議し、その承諾を得て原告において金拾壱万八千余円の費用を投じて大改築を施した上居住するに至つた。従つて右家屋は原告の大改築に因つてその利用価値は従前に比べて十四五倍となり、而も家主との特約によつてその借家条件も変更したから家主は新たな賃貸借としてその家賃の額について県知事の認可を受けた上、地代家賃統制令第十四条第一項の規定に従つてその認可統制額を宇和島市長を経由して知事に届出でなければならないのに家主は当時右の認可を受けず口頭を以て原告を単なる借家人としてその変更を被告に届出で被告もまたその頃家主の書面による正式な届出なくして原告を単なる借家人として取扱い前記家屋に対する家賃台帳に家主の届出に照応する借家人変更の記入をし従前の借家人立花久一に賃貸当時の停止統制額をその儘利用延長して爾来年次修正家賃額を被告名を以て公示して来たのであるが被告の右家賃台帳の記入は地代家賃統制令第十四条第一項に基かないで為された違法のものであるからこれを削除し改めて適法なる家賃台帳の作成を求めるというに在る。
よつて審案するに原告の主張するところは要するに原告が大改築を施して前記家屋を訴外林愛蔵から賃借した当時家主から借家条件変更に因る家賃の額について知事の認可を得ず、かつ書面によらないでただ単なる借家人の変更があつた旨の届出によつて被告が家賃台帳の記入をしたのは地代家賃統制令第十四条第一項の規定に違背するものであるからその取消しを求めるというに帰する。
ところで原告のいう行政庁が貸主の届出によつて為す家賃台帳の記入行為がいわゆる一種の公証行為たる行政処分として取消訴訟の対象となるものとしても行政事件訴訟特例法第五条第一項乃至第三項によれば行政処分の取消しは原則としてその処分のあつたことを知つた日から六ケ月以内に訴を提起するを要し、又処分の日から一年を経過したときはもはやその取消の訴を提起することはできないものであるが、本件において原告の取消を求める行政処分が為されたのは昭和二十二年九月十七日原告が本件家屋を賃借当時であることはその主張自体からうかがわれるところであり、又本件訴が提起されたのは昭和二十九年九月十六日であることは記録上明かなところであるから本件訴はその出訴期間をはるかに経過していることは明らかであるのみならず右期間内に訴を提起することができなかつたと認められる正当の事由があつたとも思はれない。
そうだとすれば原告の本件訴は被告の右処分行為が違法であるかどうかを判断するまでもなく不適法でありその欠缺はもはや補正することができないものであるから民事訴訟法第二百二条によりこれを却下すべきものである。
よつて訴訟費用の負担につき同法第九十五条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 谷本仙一郎 瓦谷末雄 栄枝清一郎)